2012年3月:【ふたたび”命の箱】
皆さんこんにちは、渡邉です。
早いもので「東日本大震災」からもうすぐ一年経とうとしています。今回の「ひげ日記」では地震について書かせていただきます。
私は以前「命の箱」というタイトルでこの「ひげ日記」を書いたことがあります。それは2007年7月に起きた、「新潟中越沖地震」の被災地を訪れた直後のことでした。その時の「ひげ日記」は以下のような内容でした。
■家づくりで最も大切なもの
皆さんに知っていただきたいのは、「地震は人を殺さない」と言うことです。「建物が人を殺している」のです。私はかねてから、「すまいは命の箱である」と言っています。耐震性能が低い住宅は、大切な家族や財産を守るはずの家が、家族を殺してしまうのです。
地震で倒れない家であれば、その家に住む家族が、将来に渡り地震で命を落としたり大けがをしたりする確率を1/3は軽減できます。なぜなら多くの人は睡眠や食事、入浴等の為に人生の1/3は家にいるのですから…。
地震の時に『壊れる家』と『壊れない家』、もっとはっきり言ってしまうと『家族の命を守る家』と『家族を殺す家』の境目があるのです。住み手にとって日常生活ではなかなか実感できない性能だからこそ、家づくりを考えるとき耐震性能にはこだわっていただきたいと思います。
以下省略。
当時の原稿全文はこちらからご覧下さい(2007年8月号より「いのちの箱」)
■東日本大震災
そして昨年「東日本大震災」が発生しました。福島の被災地に入って感じたのは津波の力のすさまじさでした。建物ばかりではなく大きなコンクリ-トの塊である堤防まで流されている現場を目の当たりにすると、何も言葉が出ませんでした。
建物の構造計算の中で津波の想定などしていませんし、2階建ての住宅など構造に関係なく流されてしまう。海沿いのエリアでは耐震など無意味だ。それが当時の正直な感想でした。
しかし現在は、海沿いの家でも地震発生後安全に非難するためには、少なくとも倒壊しない程度の耐震性を確保しておかないと危険であると考えています。
■東海地震
ではいつ起きてもおかしくないと言われている「東海地震」について考えてみましょう。静岡県地震防災センタ-が東日本大震災後に更新した「東海地震が発生した場合の静岡県下での建物被害想定」があります。そこには「東海地震」が起きたとき、静岡県内の建物総数約152万棟のうち192,450棟(全建物の12.6%)が大破し、294,846棟(全建物の19.3%)が中破すると想定しているのです。
実に全建物の約1/3(全建物の31.9%)が大破・中破すると想定しているのです。大破・中破の原因のうち最も多いのが、地震動等によるもので大破・中破あわせて423,298棟(全建物の27.7%)もあります。
ちなみに津波による建物被害想定は、大破・中破あわせても全建物の0.3%というきわめて小さい数字でした。この想定からも東海地震の対策として最も大切なのは建物の耐震性を高めるということになります。
■地震後に大切なのは断熱性能
さて、東日本大震災後に国交省から発表された興味深い資料があります。それは「ライフラインが断たれた時の暖房と室温低下の実態調査」というものです。そこには、次世代省エネ基準以上(弊社の標準仕様)の断熱性能の住宅では、東日本大震災被災後の暖房器具が使用できない場合でも、室温15℃程度を維持していた。との記載がありました。耐震性能が高く地震に耐えた家の場合、次に必要な性能はやはり断熱性能なのです。
■耐震性能+パッシブデザイン
弊社では東日本大震災が起こるずっと以前から、「地震に強く住む人と地球にやさしい家」~快適で省エネなエコ・ハウス~を皆様にお勧めしてきました。耐震性能を高めた上でパッシブデザインと高気密・高断熱で快適なエコハウスをお勧めする。
何度も被災地を見てきた私は確信を持って皆さんに伝えたいのです。そうした家づくりをすれば、地震の揺れやライフラインが絶たれたときでも大切な家族と財産を守ることができるのです。東日本大震災の記憶が薄らいでしまう前に、建物の耐震性と断熱性について今一度考えてみては如何でしょうか?
㈱建築工房わたなべ 代表取締役 渡邉泰敏